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第022号 『編集者にウンと言わせる企画の見つけ方
                     〜読者はどこにいる』

■読者あっての出版


おはようございます。
本多泰輔です。

読者というのは、その多くが声なき存在です。

文芸書ならサイン会とかファンの集いのようなイベントで存在を確かめられますが、ビジネス書の場合は出版記念セミナーでも開かない限り、まとまって尊顔を拝する機会はそうありません。

しかし、読者なくして版元も著者も成り立ちません。

わかっていることは日本語が読める人であること。よって多分ほとんどは日本人であろうということくらいで、個人情報の類はさっぱりわかりません。わすかに読者ハガキから推測するのみです。

例え「社長のための…」というタイトルにつけようとも、読者が社長であるとは限りませんし、思い切って「社長限定!」とつけたところで、かえって新入社員に読まれてしまうこともあります。

現実の社長よりも社長を目指す人のほうが、この種のタイトルには敏感なのです。

つまり、出版する側が読者を選ぶことは、実は不可能なのです。

いわゆるブックマーケティングでも、読者を選んでいるのではなく、読者ハガキの中から特定の人を選んでいるのです。

いくら擦り寄ろうとしてもつかみどころがない蜃気楼のような存在。それでも確かに存在する。それがわれわれの死命を制する読者たちなのです。

個人情報がわからない以上、作り手としては読者をこれと仮定して本をつくるか、読者を考慮せず勝手につくるしかありません。

後者は芸術の一環である純文学ならばかろうじて成立しますが、ビジネス書を含め出版を生業とするものは前者を選択するしかありません。しかし相手は正体不明ですから、仮定はたいていはずれます。


■「それが分かれば苦労はしない」読者の気持ち


読者の立場から見たらどうでしょうか。なぜビジネス書を読むのか、わが身を顧みますと次のようになります。


1.有名人の本だから読む
2.話題の本、ベストセラーだから読む
3.必要だから読む
4.面白そうだから読む
5.たまには勉強しようと読む


順番に意味はありません。思いついたままです。
それぞれ詳しく見てみましょう。


(1)有名人の本には、有名人でなくてもその著者のファンだからというケースも含まれます。中谷彰宏とか斉藤孝とか神田正典などの本は、底堅いファンがいるのでしょうね。もはやファンのために出しているも同然、一種芸能人です。ファンは固定票ですから票読みが可能です。


(2)話題の本はだれでも気になります。最近は書店の店頭にこれ見よがしに「当店のベストテン」というものを晒して、来訪者の強迫観念を刺激しています。たまたまその店だけで売れてる本だとしても、やはり気になります。これは浮動票層ねらいです。
この層はベストセラーに弱い。どっと押し寄せます。


(3)必要だから読む。これがビジネス書の企画の原点でした。読者はよんどころない事情があってしかたなく買うわけです。だからなるべくわかりやすいほうが良い。できれば安いほうがもっとよい。「話し方」の本とか、「個人情報保護法」がこのジャンルです。


一見固定票ですが、(1)が地方農村型磐石の固定票なら、これは都市型です。気分次第で他所に遊びに行っちゃし、風に敏感。伸びるも落ちるも風次第。


(4)面白そうだから読む。ビジネス書にも『借りた金は返すな!』『社長を出せ!』など、手法や体験の面白さを魅力にした本や、主婦が株で儲けたとか意外性でアピールする本もあります。なかには必要な人もいるでしょうが、これもほとんどの読者は浮動票。


(5)たまには勉強しようなどという殊勝な人は、まったく気まぐれな浮動票で正体不明な読者の代表ですが、非常に影響力のある集団で、この集団に注目してもらわない限りビジネス書がベストセラーになることはありません。


読者というのは、ほぼ浮動票ですね。ミリオンセラーとなるような本とは、つまりはこれらの浮動票層を取り込むことに成功した本のことです。


■読者の視線で企画を吟味


新人著者の持ち込み企画をこの1〜5の読者の視線で吟味してみるとどうでしょう。


(1)は論を俟ちません。著者としては新人でも、すでに何万人もファンがいる有名人となれば、出版社も大いに期待し三顧の礼で迎えられます。票読みできる巨大な票田があるわけですから。


(2)企画のうちからベストセラーはないですが、話題性というなら例えば花田家のお手伝いさんが何か書くなら即OKですね。読者も興味津々。ちょっと前ならライブドアですか。

話題性があるというのは、知名度ですから、地味な話題でも浮動票も巻き込んで跳ねる期待あり。無名の新人にもチャンスがあります。

例えば『社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった』は跳ねました。これがサマーランド(東京郊外にある私の好きな遊園地、流れるプールがあった)だったら何人の読者をつかめたでしょうか。


(3)必要な本というのは、とりあえず編集部の書類選考は通ります。

しかし概して類書も多いし、読者も何万人といるわけでもないので、最近では必要なだけでは出版に踏み切りません。編集部としては、2万部を超えるにはなにか浮動票を惹きつけるものが欲しい。


(4)まず著者が面白そうだと思い、次に編集部もそう思えば、読者もそう思う期待大。

なにが面白そうかはとてもここには書ききれませんが、「社名の由来」などという地味なテーマでまとめた本もヒットしました。著者も一人の読者、読者の素朴な眼で面白いものを探すしかありません。


(5)たまには勉強してみようという人の視線で見たらたいていの企画がOKですね。なんでも勉強ですから。ここでは、自分の専門外のことを勉強して本にするという切り口がひとつの成功モデルです。

古くは『人事屋が書いた経理の本』、ちょっと前は予備校講師が書いた経済ニュースの本、NHKアナウンサーが書いた政治ニュースの本など、半分素人という触れ込みがかえって読者にやさしそうな印象を惹起させるのでしょう。


■彷徨するビジネス書企画


今度は、編集部側から1〜5を見てみます。くどいですね。

1〜5のうち、(1)の有名人企画は何かと手間とお金がかかるし、(5)のたまには勉強しようという人に対しては、いかなる企画がよいかつかみ所がなく、結局、実は版元でも企画として起こすことができるのは(3)の「必要」な企画か(4)の「面白そう」な企画、実現性のあるところで(2)の「話題性」地味バージョン企画なのです。

普通ビジネス書を企画するときは、そのなかでも(3)の「必要だから」をベースにすると想像します。

だから持ち込み企画も「この本はこういう読者に必要だ」ということで考えられたものが多く提出されます。編集部でもかつてはそうでした。

ところが、今日の出版傾向は書店の棚を見てもわかるように、「必要」であることよりも「面白そう」を強調した本ばかりが目につきます。

ソフトフォーカスで見合い写真のような著者のカットを表紙にあしらった本は、テーマが営業であれマナーであれ経理であれ、その意図は「面白そうでしょ。興味惹かれるでしょ」と読者を誘なっているに他なりません。

読者は、必要なものより面白そうなものを好むのでしょうか。それとも必要なものはもうないのでしょうか。

時代が昭和までは、ビジネス書版元は読者にとって「必要」なテーマを軸に企画をまとめ本をつくっていました。

それで十分経営も成り立っていましたので「棚で回転させる」日本実業出版社に代表されるビジネス書業界は、浮き沈みの激しい出版業界にあっては、安定したジャンルとして注目され、何度かに亘り大手からの参入もありました。現在は新書・文庫に大手の参入が目立ちます。

「必要」な本というのは、安定していますが5万部を超えるようなベストセラーになることはめったにありません。

そうしてビジネス書の各版元は、部数を伸ばすためには「必要」な本より「面白そう」な本だということを経験的に知りました。

同時に「面白そう」な本は安定した部数を見込めないことも数多くの失敗を通じて痛感しています。


■版元の事情


しかし、肥大した出版点数と伸びない部数という出版界全体を覆う窮地を凌ぐために、ビジネス書であっても小部数安定の「必要」な本より、大部数不安定の「面白そう」な企画に希望を託すこととしました。

手堅く負けない勝負をしていたものが、のるかそるかの大バクチに出てしまったのです。

いま「必要」な本をつくれるビジネス書出版社は、規模のパワーがあるトップグループと少ない発行点数ゆえ部数を抑えられる下位グループくらいで、その間の大多数がいまや「必要」な本をつくれる「余力」がありません。

著者はたいてい自分の本が世の中に「必要」なものだと確信して企画しますけれども、出版社は「必要」な本では部数の伸びが期待できないと考えています。

ここに著者と出版社の企画の溝があります。

編集部が求めるのは「面白そう」な本ですが、残念なことに概して著者はこの「面白そう」なというセンスがありません。

元来、ビジネス書はこむずかしいことをわかりやすく翻訳することがレゾンデートルでしたから、「わかりやすい」ことが重要なのはいうまでもありません。

また、何の役にも立たない「面白い」だけの本はビジネス書とはいえません。そもそも、そんな本を書いてもコンサルタントとしての権威は高まりません。

「必要」で「わかりやすい」、そのうえ「面白い」ことが大切なのです。

企画を立てるとき「必要」で「わかりやすい」うえに「面白そう」をキーワードにすれば、編集部の対応はぐっと違ってきます。


■まとめ


読者は何を望んでいるのか。この本に読者はいるのか。というのが、編集者が企画会議でつかう常套句です。

果たしてそう言ってる本人もどこまで考えてしゃべってるのか疑わしいところがありますが、とりあえずそう言えば相手は黙るので、話を自分のペースに戻そうとたくらんでいるときによくつかいます。

読者は「週刊東洋経済」を読んだ後に「週刊大衆」も読むし、朝、駅で「日本経済新聞」を買った人が、夕方「日刊ゲンダイ」を買ったりします。

セレブだったら「週刊朝日」は読んでも「アサヒ芸能」は読まないでしょうが、読者はセレブだけではありません。それにセレブだって隠れて「花と夢」は読んでいるかもしれません。とても不確定です。

コンサルタントを始めとしてビジネス書を出そうという人は概して専門家です。ゴマをすろうってわけではありませんが、人口ピラミッドの横軸に人口、縦軸にインテリジェンスをとれば概ね三角形の上方に位置する人々です。

位置は高いがその面積は小さい。狭い世界に住んでいます。一方大多数の読者は三角形の下のほう、面積の大きいところにいます。

専門化がビジネス本を書くときの原則は「読者は自分の傍らにはいない」です。

かつてビジネス書は、この大きな面積を占める読者に向って専門書から脱したわかりやすい本をつくろうとしていました。いまや迷路に入り込んだ感があります。

とはいえビジネス書の読者が消えてなくなるわけじゃなし、版元の何社かは不幸な運命を辿るかもしれませんが、著者にとっては残ったところと手を結べばよいだけのこと。

チャンスは読者ある限り永遠不滅です。

そういうわけでチャンスは海の向こうからもやってくる。次回のテーマは「ヒット企画は海外から拾おう」です。お楽しみに。

 

    《編集後記》
 
今週のテーマは「読者さがし」。みなさんも、一読者として普段から数多くのビジネス書を読んでいらっしゃると思いますが、いざ自分の企画となると、客観的な視点で見ることが難しいですね〜。

「必要で」「わかりやすく」「面白い」というフィルターで、今一度、ご自身が準備されている企画を見直してみるのはいかがでしょうか? もし判断に迷ったら、本多さんへ企画を送っていただくのも歓迎です (発行者:樋笠)



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出版プロデューサー/本多 泰輔(ほんだ たいすけ)

プロデューサー・本多泰輔氏は、ビジネス出版社(版元)で20数年の経験をもつベテラン編集者から、出版支援プロデューサーに転身した人物です。その考え方について詳しく知りたい方は、本多氏編集のメールマガジン『コンサル出版フォーラム!本はあなたをメジャーにする』のバックナンバーをご一読下さい。








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