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第033号 『著者になるための条件:本一冊を書く体力』

■宴のあと


おはようございます。

みなさん、深夜まで選挙速報を見続け、今朝は睡眠不足なのではないかと心配しております。

はっきりいって自民、民主ともそう大きな政策の違いはないにも関らず、これほど選挙が白熱したことに、もはや自分の理解を超えたところに政治はあるなと感じている本多泰輔です。

なにはともあれ、近年まれにみる関心を集めた衆議院総選挙も終りました。結局わかったことは、やはり予想というものは当てにならない。

「よそう」という字を逆から読めば「うそよ」。
昔流行った寒いダジャレが甦ります。

当たると思って出した本でも、実際はその半分も当たらない出版界にあっては、予想が外れることに鈍感になっていましたが、もう少しシビアに予測がつくようにならなければ、出版もいけないなあと反省しながら、テレビの速報を見ておりました。

しかし、有権者も読者も顔が見えないという点と、浮動票が文字通りキャスティングボートを握るという点で、出版と選挙はまことに酷似しております。

ゆえにどちらも「よそう」が「うそよ」にひっくり返るのです。


■本は体力で書く


どの選挙区を見ても、立候補者は凄まじい行動力でした。

もはや年金受給年齢のかたも少なからずいらっしゃるのに、みなさん何かに憑かれたような勢いで駆け回っておいでになる。

選挙期間中にあれだけ体力を消耗すれば、当選後なにもできないのも無理からぬことです。

しかも、立候補者は選挙中、なぜかみなさん庶民になってしまいます。明らかに庶民じゃない人まで、生まれてからずっと庶民だった、という顔で握手と挨拶をしています。

不思議ですね。

さて、当落に関わらず立候補者には体力が必要ですが、実は本を書くのにも体力は必要です。

「本を書くなら40代までに」という著者もいます。
どういうことでしょうか。

「人生に一冊の本を」という自費出版のコピーのように、締め切りのない一冊だけを書くのであれば、別段体力を意識する必要はありません。

一生一度のことですから、無理も利くでしょう。
一冊だけならば。

出版には次のような体力を必要とします。


1.企画ネタを拾い続ける体力(軽作業)

2.出版社と折衝する体力(相手によるが概ね軽作業)

3.本業の合間を縫って執筆し続ける体力(やや重労働)

4.締め切りを守らねばならない体力(精神的重労働)

5.締め切りが近いのに残り100枚原稿が足りない
                   (決定的重労働)


5番目を乗り切るには本当に体力が要ります。

単行本一冊は、およそ原稿用紙300枚ですから、3分の1足りないというと致命的です。しかし、途半ばにして原稿はすでに完結してしまっている。

ここから100枚加えるというのは、マラソンのゴールと共に1万メートル競走のスタートを切るようなものです。

しかし、経営・経済関係のプロとして権威を高める、あるいは保つためには、何冊か連続して出版しなければ十分な効果は得がたい。

しかし、次々と新しい本を出そうとすると、すぐにネタ不足に陥ります。ネタ切れであと100枚書け、締め切りはもうすぐだ、というのは十分拷問として通用します。

これを毎年やるのです。並々ならぬ体力が求められることは容易に想像できることと思います。

年に2冊出そうと思ったら、半年ごとに苦しまなければなりません。選挙は2週間ですが、執筆は2週間では終りません。

こいつは、かなりしんどいですね。

さて、ここまで読んだら、本を書こうという決心が揺らぎ始めたのではないでしょうか。


■計画的に行かないのが人生


不思議なことに原稿というものは、総ページ数に関わらず、往々にして残り3分の1になると書けなくなるようです。

雑誌の原稿100枚を書く場合でも、60〜70枚までは比較的楽に進むのですが、残り30枚が書けないという人をよくお見かけします。

私が、持ち込まれた原稿をやむを得ず読ませていただく場合でも、総じて原稿枚数がほぼ3分の1ショートしています。

みなさん、どういうわけか単行本にすると120ページくらいのボリュームしか書いておられません。

単行本一冊は大体180ページですから、あと60ページ分が足りないのです。400字詰め原稿用紙ですと90枚から100枚です。

3分の2しか書いてなくて、「あとはイラストでもいれてください」などと言われると、まことに答えに窮してしまいます。

「お戯れを・・・」としか言いようがありません。

ラスト100枚は自力で越えていただかなければならない壁です。

では、なぜ途中で燃料切れになってしまうのか。
マラソンでいえば30キロ地点で力尽きてしまう理由は何なのか。

そう、お察しの通り原因は1番の企画ネタにあります。
早い話がネタ不足。

次にプロット、すなわち構成が甘い。

とはいえ、プロット通りに原稿が書けるなんていうのは、相当書き込んでいないとできないことですから致し方ありません。

対症療法は1番の改善です。

やはり、書くべき材料を準備するところで十分なウォーミングアップが必要なのですね。

ここでいう企画ネタとは、ひとつは“事例”です。事例が豊富であれば、100枚は無理でも50枚は埋めることができます。

事例は説得力がありますし、読者にとっても理解を助ける材料ですから、たくさんあっても困ることはありません。

あるいは、教科書には載っていない逸話ですね。
事例の一種ともいえますが、本文に彩を添えます。

こういうネタを日常的にたくさん蓄えておけば、燃料切れにならず無事にゴールまで到着することができます。

日ごろの精進の賜物は、選挙運動でも執筆でも変わりません。

つまりは、こうしたネタ集めに力を使わないと、出版を続けることは叶わぬのであります。


■最後は編集者に頼ろう


せっかく受けた原稿なのに、どうしてもあと100枚が書けない。
締め切りはもうすぐそこまで迫っている。

ああ、どうしよう。
もうネタがない。

そういう時、編集者がついているのなら、独り呻吟しないで、なるべく早めに編集者に打ち明けましょう。

締め切りを過ぎてからでは、相談されてもちょっと和やか雰囲気ではやれないかもしれませんが、締め切り前であれば案外スムーズに解決したりします。

案ずるより生むが安し。

はっきり言って、編集者はものは知りませんが、原稿を延ばすのは本能的に得意です。編集者も仕事ですから、このときばかりは真剣に考えます。

本文の構成に隠れたすき間を発見し、事例なり図表なりでページを増やすアイデアを出してくるでしょう。

まれにみる親切な編集者であれば、図表データも探してくれるかもしれませんが、そこまでは期待せず自分で探してきましょう。

探しているうちに、他にも役に立ちそうなデータを発見することがありますし、そうこうしているうちに1章くらい増やすことができるものです。

仮に相方の編集者が新人であったとしても、締め切り前であれば、担当者は編集長とも相談できますから、一辺相手に投げてみたらよいと思います。

対応の手段は、そう困難ではない方法で必ずあります。時間はつくることができませんが、原稿はいくらでもつくることができるのですから。

といって、いくら早目がよいといっても、半分しかできていないような段階で相談に行くと、力量を疑われる恐れがありますから、せめて3分の2は仕上げてから行きましょう。

諸般の理由で、不幸にして編集者に相談できないときは、定評ある「出版塾」に相談するとか、フリーの編集者に聞いてみるとか、この分野の経験者に当たってみるとよいでしょう。


■パートナーを求める


独りで300枚を書こうとすると、どこかで重労働に出くわしてしまう。

ならば、はじめから手間のかかりそうな部分を、その方面が得意な人に割り振るというのもひとつの方法です。

雑誌でいうところのデータマン。
新聞ならば記者の取材メモに相当します。

パートナーの活用です。企画ネタの外注と見ても構いません。

コンサルタント同士、横の信頼関係があるならば、部分的に協力してもらってもいいでしょう。

ただし、出版社はひとつの本に複数の著者名が出ることを嫌いますので、あくまでも中心となる人物がまとめるという形でなければなりません。

6人で30ページずつ書いていくというやりかたでつくられた本も見ることはありますが、分野別のガイドブックならいいのですが、ひとつのテーマを何人もの著者で書くと本に読者がつきません。

雑誌でも、何人ものデータマンがネタを集めてきますが、記事を執筆するのは一人のアンカーマンといわれる人物の仕事です。

共同作業であっても、著者としての責任の所在は、はっきりさせておかなければなりません。

また、こうした共同作業を編集部のほうで差配することはありませんので、印税等の分配についても、中心となる著者自身が、後々知的所有権等の問題でトラブらないよう配慮しておく必要があります。


■まとめ


今回は、本を書くには体力が必要ということでお話しました。
まとめてみると以下の通りです。


(1)原稿は、ラスト100枚が重労働

(2)ラスト100枚の壁を突破するために、日ごろから事例や逸話等のネタを集め続けよう

(3)編集者には早めに相談。または、信頼できるアドバイザーを見つけよう

(4)パートナーとの共同作業で、体力を温存する方法もある


それでも体力に自信のないかたは、某有名著者のようにライターにデータだけを渡して丸ごと書いてもらいましょう。

ところで、最近の日経新聞の書籍は、まるで昔日の日本実業のような実務書路線ですね。

どうしたのかなと思って関係筋に聞いてみたところ、こたびの出版局長は開闢以来の出版生え抜きのかたらしく、以前の有名人に出してもらうか、自分とこの新聞記事をまとめればいいんじゃないっていう路線から離れ、より実務に近いビジネス書を積極的に出しておられるご様子と承りました。

どちらさんもパラシュート部隊ではどうにもならないのですね。

というわけでビジネス書の版元は増殖する一方です。
出版のチャンスは周囲に溢れかえっています。

ではまた来週。


    《編集後記》
 
先日、本多さんの出版プロデュース相談に立ち会いました。その中の話でも『某有名著者(実際には実名)のようにライターにデータだけを渡して丸ごと書いてもらう』話がでていました。あんまり有名人なんで、これってどうなの?と思いましたが、分業と割り切るのも、ひとつの考え方なのかな・・・と。

それだけ執筆の苦労ってすごいんですね。以前インタビューした池田光さんのように、短時間で執筆するノウハウが編み出されるのも頷けます(発行者:樋笠)



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出版プロデューサー/本多 泰輔(ほんだ たいすけ)

プロデューサー・本多泰輔氏は、ビジネス出版社(版元)で20数年の経験をもつベテラン編集者から、出版支援プロデューサーに転身した人物です。その考え方について詳しく知りたい方は、本多氏編集のメールマガジン『コンサル出版フォーラム!本はあなたをメジャーにする』のバックナンバーをご一読下さい。








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