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第064号 『自費出版ビジネス、碧天舎から見えること』


■自費出版、最近の流れ


おはようございます。
本多泰輔です。


『一次審査通りました』
 
『二次審査通りました』

『あなたの作品は受賞こそしていませんが出版するだけの質は有しており、読者の反応を見たいので当社と著者で費用を折半する共創出版という形で世に出したいと考えています』


著者の負担額はざっと100万円超。

3月末に破産、先々週の債権者会議が大いに荒れた、自費出版大手の碧天舎が行っていた「作品コンテスト」の開催で原稿募集し「共創出版」へと誘う営業手法。

これが自費出版のビジネスモデルだそうです。
そういうわけで最近の自費出版事情です。

「共創出版」というのは碧天舎独自の用語で、他社では協力出版とか共同出版という呼びかたをしているところもあるようです。

要するに「出版しますから著者も一部費用を負担してください」ということで、通常の出版のように取次ぎを通じ、本を書店に流通させることを前提としています。

本来自費出版とは、取次ぎルートに乗らない私家版の本のことをいうので、正確には自費出版とは呼べないのですが、実態は限りなく自費出版です。市場に流通しない本ではお客が集まらないと、自費出版業界では市場流通型にシフトし規模を大きく伸ばしました。

次に、より積極的に集客するため「作品コンテスト」を開催、どの新聞にも毎月どこかの「作品コンテスト原稿募集」の広告が出ています。いまとなっては、釣りでいうところの撒き餌みたいで、あまりいい感じはしません。

本当に入賞者がいるのか、賞金はちゃんと支払われているのかとか、余計な興味は尽きませんが、それはさておき、なにごとか書き留めたいと思っている人にとっては書店に並ぶ(であろう)自費出版は、著者の期待を刺激する大層魅力的な選択肢のようです。

後段でも述べますが、自費出版はどんなに形態が変わろうと自費出版です。

かつては文字通り自分で周囲の人に配る、あるいは売る本を自費でつくることでした。いまは通常ルートでも販売されるわけですが、その費用が自己負担であることはいっしょです。

聞くところでは、制作費は出版社で負担するが原稿を完成させるための費用を別途請求したり、在庫を買い取ってもらったりと、いろいろ名目を変えてはいるものの結局自費出版という新手法も出てきているとのこと。ま、いろいろ考えますね。

では自費出版と通常の出版とは、どこがどう違うのでしょうか。


■通常出版と自費出版


通常出版と自費出版の違いですが、お金を一円でも払ったら自費出版で、原稿以外一円も出さないのが通常出版という定義は、間違ってはいませんがやや偏狭です。

今回、報道では碧天舎を自費出版大手(つまり文芸社、新風社と並ぶ)と断定していました。が、正確には自費出版ではなく、やはり「共創出版」なのです。

出版権が設定されている以上在庫は出版社の商品であり、著者は「一部費用」を負担しているものの、微少とはいえ印税もありますから、実態は自費出版でも名目上は「出版」なのです。

債権者会議がもめたのも、ひとつはこの辺の複雑さに原因があるようです。

上記のようにお金を出していても「通常出版」というケースがあふれていますから、定義はともかくとして、ここでは著者に不利な自費出版(共創出版)にならないよう注意点を申し上げましょう。

出版社がリスクを背負って本を出すのは、言うまでもなく本を売って儲けるため。リスクで一番大きいのは配本部数です。直接制作費に影響しますから、できれば少なくつくって着実に売り重版を重ねたいところですが、市場の現実は少部数の出版を許さないシビアなシステムになっています。

碧天舎の山本社長が言うところでは「本は40万円でできる」そうです。でも、たった500部、1000部つくって配本しても、いわば「兵力の小出し」、主要書店だけに送っても配本は1冊程度。

これでは「即返」間違いありません。
読者の反応を見ることも不可能です。

100万円出して1000部つくって市場に撒いても99.9%売れることはない。だからこの書店流通は、本を売ることが目的なのではなく、自費出版の注文をとることが目的のビジネスモデルと見えます。

もし本を売ることが目的であれば(定価5万円の高額本でない限り)、どんなに少なくても3000部以上の配本が必要です。

一定以上の販売力を発揮しようとするなら8000部以下では勝負になりません。これが通常の出版です。ですから碧天舎のビジネスモデルは、表面上は通常出版に見えますが実態は「一部書店にも置かれる(こともある)自費出版」という形態なわけです。

いわば装飾を施した自費出版です。

既存の出版社、例えば講談社でも講談社出版サービスセンターというところで自費出版をやっています。規模の大小に関わらずたいていの出版社には自費出版部門があります。

講談社出版サービスセンターと件の碧天舎との違いは「コンテスト」をやっていない、募集広告を打っていない、価格が高いという点でしょう。

もう少しはっきり言うと、あまり一生懸命やっていない、というのが既存出版社の自費出版部門の特徴です。

特に怠け者の社員がやっているというわけではありません。既存出版社は、自費出版大手のように原稿募集のための「作品コンテスト」をしたり、少部数の配本を大量に行ったりすると肝心の本業にマイナスの影響を及ぼします。

売れようがない少部数の本を市場に出すことは、自らの販売力を損なうことになりますから過剰な自費出版の発行は不可能なのです。

結果、営業よりも本造りに傾注した仕事のスタイルになります。大手版元の自費出版部門は概ねそういうカラーじゃないでしょうか。


■自費出版会社がなぜ倒れたか


「4年間で1,400点本をつくったがずっと赤字基調だった。赤字部分は私財と別会社(ビブロス)から資金を入れて補填していた」

とは碧天舎山本社長の弁です。
別会社が金に詰まったので、先ず碧天舎が倒れたという構図です。

疑問点もありますが、流れは多分そうでしょう。詳細はいずれ債権者との協議の中で明らかになると思います。

それよりも自費出版でなぜ赤字になったのか。
ここが疑問の核心です。

「碧天舎をつくったのは自費出版がブームのころ。しかし、直後から業界が過当競争になり平均200万円だった制作費が160万円に下がってしまった」

最近ではさらに下がって、債権者の話によれば100万円から130万円くらいで500部から1000部程度を流通させていたようです。

「本をつくるのは40万〜50万円あればできるが、宣伝広告費に多額の出費が必要だった」

自費出版の会社ですから、本を出した段階でしっかり利益を確保しているものと思っていましたが、実はそうでもなく、山本社長の話が真実なら利益のほとんどがコンテストの開催費用に注ぎ込まれていたことになります。

「作品コンテスト」に多額の広告費を使ったとはいえ、それでも前受け金で商売している会社が倒産するというのはやっぱり妙です。どうも倒産の原因は、別会社の行っていた電子出版への投資にあるように見えます。

つまり、碧天舎固有の事情が今回の倒産の背景であり、自費出版業界で行われているビジネスモデルが破綻して火の車だから、業界全体が不振と見るべきではないと思います。

この件がきっかけで不振になる可能性はありますが。

ただ、潤沢な利益があるならば連鎖して倒産させることはしないですから、赤字基調かどうかはともかく、自費出版1点あたりのもうけはさほど大きくなかったということでしょう。

市場流通型の自費出版モデルを採ったことにより、規模は拡大したものの業界としては高コスト体質になってしまったのかもしれません。

まあ、会社があまり儲からなくても今回みたいに潰れさえしなければ、安い価格で自費出版できるのは利用者にとってはけっこうなことです。


■自費出版をどう考えるか


それにしても出版それ自体のために費用負担をしてでも本を出すという一般の人が、かくも多くいるとは不肖本多の想像を超えておりました。

自分の商売の販促として本を出すというのなら、投資に対する相応の効果を期待できますが、リターンのない出版に財産の一部を充てるとは、人間は表現することに本能的な欲求があるのかもしれません。

有史以前の洞窟で描かれた動物の絵も記録のためではなく、描きたいから描く表現欲から生まれた芸術なのでしょうか。

それはともかく、出版は東京の地場産業ですが全国各地にもそれぞれ地方誌の出版社があり、ここでも自費出版はできます。

流通まではできないでしょうが、地域の書店さんは地元の人の自費出版には好意的ですから、自ら持ち込んでも割合寛大に扱ってくれます。そうした牧歌的なつつましい自費出版、書店扱いもひとつの方法です。

自費出版からメジャーになった人は、本邦でも古今数多くおります。宮沢賢治も自費出版でした。

それを夜店の一山いくらで売られていた本の中から詩人の草野心平が見出し世間に紹介、しかし草野自身がまだ無名であり、賢治が現在のように多くの人に知られる作家となったのは、本人が早世した後のことでした。

出版物に自費出版、通常出版のヒエラルキーがあるわけでありません。あるのは傑作か秀作か佳作か、あるいは凡作か駄作かのみです。売れる売れないも「兵家の常」、天運の赴くところ、人智の及ばざるところです。

作品の価値とは畢竟その内容にかかっているのであって、出版の経緯も発行の社名も本当はどうでもいいことです。

出版それ自体を考えるならばこういうことだと思います。
自費出版でも大いにやるべきでしょう。

ただ、現在の出版流通は自費出版の本にとって不利な仕組みとなっています。本を残すことが目的なら、あまり市場の流通にこだわらないほうが、よりリーズナブルと思います。

全国書店での一定の影響力を求めるならば、自費出版専門の出版社よりも既存出版社から発行するほうが効果は期待できるでしょう。それでも自費出版からのチャンスを求めてしまうのが人情です。

99.9%は売れませんが、1000人に1人はチャンスをつかみ得る可能性があるのですから、それもまたひとつの選択肢です。


『あなたの作品は受賞こそしてませんが出版するだけの質は有していて、読者の反応を見たいので当社と著者で費用を折半する共創出版という形で世に出したいと考えています』


というお誘いが来たら、以上のことをご理解の上適宜ご判断下さい。


    《編集後記》
 
自費出版。本を出したい、それでも通常の流通ではハードルが高い。そんな心の隙を狙った感じもしますね。善悪の話でなく、やっぱりコンサルタントとしてはきちんと企画を認めてもらい、ビジネスベースに乗るかたちでの出版を目指すべきでしょう。

そうでないと、せっかく労力をかけても広く読者に届けるチャンスを自ら手放してしまう気がします。メルマガ読者のみなさんはよくご承知かと思いますが、やっぱり発売から書店にざーっと平積みされて、重版をねらっていくのが出版デビューの王道でしょう!(発行者:樋笠)



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出版プロデューサー/本多 泰輔(ほんだ たいすけ)

プロデューサー・本多泰輔氏は、ビジネス出版社(版元)で20数年の経験をもつベテラン編集者から、出版支援プロデューサーに転身した人物です。その考え方について詳しく知りたい方は、本多氏編集のメールマガジン『コンサル出版フォーラム!本はあなたをメジャーにする』のバックナンバーをご一読下さい。








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