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第080号 『最近のベストセラーに学ぶ文章術』


おはようございます。
本多泰輔です。

一昨年から昨年と猛威を振るった「話しかた」の本は、このところだいぶ下火になってきたようですが「会計の本」はいまだに堅調です。

といって昔からあった同友館が出しているようなオーソドックスな実務書のラインナップである「会計の本」はあいかわらず“手堅い動き”で、動きのよいのは『さお竹屋…』や『社長のベンツ…』のようなある種キワモノ的な“読みやすい、わかりやすい”を強調した一般書に近いビジネス書のほうです。

つまり「会計」自体がブームなわけではありません。

なぜ、「初歩の会計入門」では読まれずに『社長のベンツ…』に読者の手が伸びるのでしょう。そして『さお竹屋…』以来累計すると300万部は超えるであろう会計本を購入している読者は、なんのために会計の知識を求めているのでしょうか。


■なぜいま会計が


ビジネスシーンで会計知識を求められる機会が増えているのでしょうか。あるいは会計知識がないとバカにされる世の中になったのでしょうか。それとも入社試験や昇進昇格に会計知識が問われるのでしょうか。

「決算書の読みかた」はビジネス書のテーマとして定番であり、過去にも10万部を超えるベストセラーがいくつも生まれました。

どの本も方法論に大きな違いはありません。決算書(BS、PL)自体の骨格は昔から同じ思想とロジックで構成されているのですから、いわゆる経営分析の計算式にもまったく変化はありません。

でも、何年かの周期をもって「決算書」のベストセラーは誕生します。同じことが書かれているにもかかわらずです。

前回のベストセラーは2002年『決算書の読み方が面白いほどわかる本』PHP文庫で50万部超でした。

過去にいくつかのベストセラーがあったとはいえ「決算書」の本で50万部を超えるものはそれ以前にはなかったと思います。PHPの「決算書」が50万部を超えた理由は明らかで、この本が文庫だったからです。

PHPの『決算書が面白いほどわかる本』は平易ではあってもつくりとしてはオーソドックスで、『さお竹屋…』や『社長のベンツ…』ほどには初心者を強く意識したものではありません。

ただ、読者はこのころから「決算書」の本に平易さと手軽さを求めていたのでしょう。新会計基準など制度変更があったから、新しい制度に対応するための必要性から読まれているのではないかという見方もあるでしょう。

確かにそういうこともあるのかもしれません。実をいうと、私は今次「会計の本」が読まれている背景には、株の本との関連があるのではないかと思っております。

つまり、株の本もほとんどが初心者向けですから、新たに株式投資を始めようという人たちが株の本を読み、そこで決算書も読めなければ投資家として心もとないと諭され、会計、または決算書の本を探す。

いくつかある会計入門書のうち、専門書っぽいのは敬遠され企業幹部向けの本もいまいち事情に合わず、“なんか素人でもわかる雰囲気”を持った本に読者が集中している、というのが不肖本多の見方であります。


■株じゃ売れない会計の本


それでもわからない部分はあります。株式投資のみならず資産運用には決算書を見分ける知識が必要です。が、決算書だけ読めればそれでいいのであって、なぜその背景にある会計の仕組みまでも知る必要があるのでしょうか。

知らないよりは知ってたほうがいいのでしょうが、なんかどんどんややこしいところに入っていってしまいそうで、やっぱり読者の気持ちがわかりません。つきることのない探究心でしょうか。

それとも「決算書の読みかた」をいくら読んでもわからないので、しかたなく会計にまで遡っているのでしょうか。

なんとなく英語の勉強でくじけた人が中学生の英語まで遡って勉強するという姿を思い出します。そういう人がたくさんいるために『中学英語…』というジャンルの本もビジネス書版元の定番商品です。

株式投資や資産運用のために初心者向けの会計の本が読まれているなら「ベンツ」だの「さお竹屋」だの持って回ったタイトルをつけず、「株式投資のためにこれだけは知っておきたい会計」でよいはずですがどうなんでしょう。

そもそもそういう本があるのかと思って調べてみたらいくつかありました。KKベストセラーズ、図解のナツメ社、株の本家『会社四季報』の東洋経済からも出ています。多分他社からも出ているんでしょう。

いわゆる株でもうけるための会計の本。まあ、不肖本多と同じことを考えているわけですね、現場でも。しかし残念なことに「ベンツ」ほどに売れている様子はありません。

ということは、読者はもはや初期の目的は忘れ「株がどうのじゃなくて、とにかく会計のことがわかればいいのだ!」と目先の目的のために本を求めている。目的のための手段ではなく、手段そのものが目的化してしまっているのでしょうか。

ま、よくあることですけど。

コンサルタントとしての知名度を上げるために本を出版しようと思ったのに、いつの間にか出版そのものが目的になり、一冊本を出したら満足感で燃え尽き症候群という人って知り合いにいませんか。


■表現の違いと印象の差


さて、強引に「新規の株式投資化=会計本の読者」説を当てはめると上記のような按配になりますが、実際問題、何が売行きを決めているのでしょう。

ことばを変えれば、何が読者を魅了しているのでしょうか?
前記3社の表紙を見てみます。

<東洋経済新報社>
『会社四季報がもっとわかる 株でもうけるための「会社の数字」 の読みかた―株式投資化のための会計知識』(井口秀昭著)

ちょっと長いタイトルですけど随所に東洋経済らしさが出ていますね。メインは「会社四季報がもっとわかる」です。やはり自社の主力商品ですからここは力の入るところでしょう。

<KKベストセラーズ>
『図解 「決算書」でもうける「株」の本』 (奥村税務会計事務所編)

ま、ちょっとタイトルだけだとわかりにくいですね。これは著者の責任ではありません。タイトルや表紙は出版社のお仕事ですから。

編集部もわかりにくいと思ったのか、営業からクレームがついたのか、かなり説明的なキャッチコピーが並んでいます。

「決算書のココがわかれば会社がわかる!株は儲かる!」

ココがどこかわかりませんが、わかれば株は儲かるらしいです。

「逆にいえば、決算書が読めないで株式投資を行うリスクのほうがはるかに大きいのです」っていわれても、たいていの素人は決算書読めないので周章狼狽するばかりかも。

要するに「決算書も読めずに株はやるな!」と気合の入ったコピーで読者に熱く語りかけています。

図解のナツメ社からは図解ではなく『儲かる株が一目でわかる決算書の読みかた』(鷹野宏明著)というのが出ておりますね。

タイトルとしては3社のうち一番まとまっていると思うのですが、株式ニューカマーの読者としては「そもそも決算書がわからんのじゃい!」ということでしょうか。

上記3点も健闘しているのでしょうが、『さお竹…』『社長のベンツ…』に較べると読者の数が違います。この差を見ると結局「株式投資のための」と目的を明確にすることでは読者を魅了することはできないようです。

ではどうしたらいいのでしょう。

やっぱり「ネコでもわかる」「サルでもわかる」会計の本とでもすればいいのでしょうか。長いこと引っ張りましたが以下が今週の主題です。


■まとめ


実は、ただいまベストセラー街道驀進中の会計本の特徴として注目しているのが文章スタイルです。

「ベンツ」のほうがより顕著ですけど、ちょっとコミックっぽい表現は恐らく普通の会計士やコンサルタントには真似できないでしょう。

普通の人はやはり格調を求めるというか、普段読んでる専門書の文体に影響されてしまいますから。

失礼を顧みず正直な感想を述べれば、「ベンツ」の著者の方だって10年後に読み返したら、ちょっとつらいんじゃなかろうかという気もします。それほど思い切った文体だということです。

とはいえ、逆に決して格調高いとは言いかねる文体であるからこそ、読者のニーズにぴったり合ったのでしょう。

書いてあることの趣旨は類書と大きく変わっているわけではなく、はっきりした違いといえば文体、すなわち語り口です。この語り口を敢えて譬えるならば、それはメール、ブログの語り口です。

軽いというかフレンドリーというか、顔文字こそないものの!マークや?マークの多用や短文による文章構成などWEB上で多く見られる文章のスタイルです。

でもこの語り口、すなわち文体ゆえに読者はわかりやすさを感じ、「とにかくわかりやすい会計の本」を求めている読者を魅了していることもやはり見逃すことはできません。

小林秀雄だって表現したいテーマに最もふさわしい文体であれば、どんな文体だっていいんだというようなことを云ってました。現代は他人のブログやメールに学ぶべき文章術はあるのかもしれません。



    《編集後記》
 
私も「社長のベンツ」読みました。やっぱりタイトルが堅苦しい会計の本でなく、気軽に読めそうな感じが売れる理由なのでしょうね。内容はさておき。さおだけ屋もそうですが、なんとなく「どうしてかなぁ?」と手にとってみたくなるのが共通していると思います。(発行者:樋笠)



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出版プロデューサー/本多 泰輔(ほんだ たいすけ)

プロデューサー・本多泰輔氏は、ビジネス出版社(版元)で20数年の経験をもつベテラン編集者から、出版支援プロデューサーに転身した人物です。その考え方について詳しく知りたい方は、本多氏編集のメールマガジン『コンサル出版フォーラム!本はあなたをメジャーにする』のバックナンバーをご一読下さい。

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