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第090号 出版、素朴な疑問2:なぜ売れない本を出し続けるのか』

おはようございます。

荒波に翻弄される小船のように、次々と締め切りに襲われすっかり外出する機会を失っている本多泰輔です。

人に会うのは一週間に二回くらい、人に会う機会が減ると格段に情報量が減りますね。生きていくには差し支えないですが、こうしたメルマガを書くときはネタ不足で往生します。

約束の時間ギリギリまで原稿を打ち込み、外に出たら電車の中で必死にプロットを考え、戻ったとたんにパソコンに向ってそれを打ち込むという、人気作家のような過酷な日々がかれこれ一ヶ月、まだあと二ヶ月はこの状態が続きます。

しかし、それ以後ぱったりと仕事が来なくなったらどうしようという不安もよぎります。実際は人気作家ではない自営業者の悲哀です。暇だけどお金はドーンと入ってくる、という理想的な環境はいつになったら訪れるのでしょうか。

印税で稼げばいいじゃないか?印税に期待するくらいなら私は宝くじを買い続けますね。

さて、国際的緊張が続く中、米国NY市場は最高値をつけ、お歳暮商戦は早くも始まるというひどく平和な今日この頃ですが、依然出版界は発行点数を増やしつつ売上を減らすという悲しいスパイラルを続けています。

『嫌われ松子の一生』くらい悲惨です。


■売れない本を出す理由


ある人が「じゃあ、なんで出すのよ。売れなきゃ出さなきゃいいじゃない」と言いました。同感です。

だいたいいまの状況は出版社が市場と会社の適正規模を超えた出版点数を出していることに原因があるのです。点数を絞ればいくらか状況はよくなるはず、というのはみんなもわかっているのです。

それは量販店が多店舗展開をしすぎた余り、売り場面積が適正水準の130%になってしまった流通業界に似ています。お客の数に対して30%ばかり余分に品物を置いているわけですから、仕入れが利益を圧迫するのは当然です。

そうすると返品しますから、メーカーも大変です。

「つくったんだから置いてよ」と言うと「値下げしろい」ということになって、「値下げする以上は一個、二個じゃいやだよ。10個以上置いてよね」とメーカーも注文つけますので、「しょうがねえなあ。スペースあるからまあいいか」と置いてみたらやっぱり売れない。

また返品で「新製品じゃないと売れねえみたいよ」とか言って「じゃあつくります」ってんで銀行から金借りて、結局在庫を増やし懐具合を悪くする。

いや、実は流通業界を偽装しましたが、まったく出版業界の現状ですね。値下げはできないので、売価の安い文庫を置いているわけです。

出版社も売れない本は出したくないんですよ。
全体に点数が多すぎることは明らかですから。

それもよくわかっております。

踊りだしたら止まられない「赤い靴」を履いてしまったのかもしれません。


■困った赤い靴


○赤い靴:その1「取次ぎとの約束」

出版社としては、年頭取次ぎ(卸し)に出した年間の発行計画を守らなくてはならない。発行計画には目標返品率も入っていますから出せばいいってもんじゃないんですが、買わないことには当たらない宝くじと一緒で、出さないことには始まらない。

「納品しなけりゃ返品もないのに」、というわけにはいかないのです。

近年、業界全体で状況を打開しようと取次ぎが中心になって、発行点数の調整を試みようとしていますが、そもそも新刊を氾濫させているのは取次ぎの株主でもある業界上位の会社ですからね。

有効打は期待できません。それに業界の現状というより、取次ぎの現状を改善したいというねらいが見え見えです。


○赤い靴:その2「成長したがる出版社」

編集も年間発行点数の目標を持っていますが、「やめろ」と言えばすぐやめます。むしろ「ああラッキー!」と喜んでいる者も少なくないと思います(経験上)。

仕事が減って困るのは自営業者で、サラリーマンである編集者はできればさぼりたいと思っているのが普通です(私の知る限り)。

でも会社はそうではないんですねえ。去年より今年、今年より来年と、大きくなりたがります。

大きくなるにつれリスクが増えるのにもかかわらず、隙あらば成長しようとします。まるで雑草のように。

大きくなろうったって本が売れなきゃどうしようもないんですが、なにが売れるかなんざわかりゃあしませんので、結局、目に見える発行点数を拡大するしかないのです。

なまじ会社が好調だと稼いだ金をほとんど注ぎ込んできますから、とりあえずお付き合いのある印刷屋さん製本屋さんには喜ばれます。

お中元、お歳暮が増えてちょっとだけ社員にも還元されます。スーパー大手、大手老舗の発行点数はそんなに変化しませんが(もう飽和状態なんでしょう)、急成長をしている版元が著しい率で新刊を増やします。

そして皮肉なことに発行点数を延ばすに従い成長が止まるのです。


○赤い靴:その3「泳がないと死ぬマグロ」

売れない本の損害を補填するための新刊発行というのがあります。特にベストセラーが出た翌年にこうした状況が出現します。

去年のベストセラーの儲けで、今年は2割増しの増収増益の計画を立てました(根拠なく)。当然出版計画も2割増し、手堅い営業部長は発行点数を3割増に設定しました。

三四半期終って進捗率50%、外編を使い印刷所を休日出勤させてつくった新刊は委託倉庫にいくつかの巨大な山となり睡眠中、このままでは税金も払えない。

お金がないとき出版者は本をつくってお金に変えようとします。本当は在庫をお金にすればいいのですが、ブックオフに大量に捌くと事が露見してしまいますし、古紙として中国に売り払うためには古物商の許可が必要です。

よって返品覚悟の新刊をつくり当座の資金調達をするのです。いわゆる「取次ぎの金融機能」をあてにした新刊発行ですが、要するに借金と同じですから返品という利息がついて後で請求されます。

それでもこれができるのは、ある程度規模と実績のある会社だけです。


○赤い靴:その4「書店から忘れられる恐怖」

書店の棚は、スーパー大手は別として中堅、新興の出版社が文字通りしのぎを削る勢力争いをしておりますので、「売れそうな企画もないし、金もないからしばらく本をつくらない」なんて気楽なことをしていては、たちまち他者に食われ、押され店頭から本が消え、新刊がないからと営業がお店に行かなければ書店さんの記憶からも消されてしまいます。

ですから新刊がないときは、×◇△フェアといって既刊本をかき集め、存在感を示そうとしたりします。でもこのフェアがまた返品を増やすんですよね。


■まとめ


なぜ売れない本を出し続けるのか、お分かりいただけましたでしょうか。多分、どこの業界でも似たようなことはあるんでしょうね。

昔、「なぜ自動車は3年くらいでモデルチェンジするのか」なる疑問に対して、とある技術系の大先生が

「実際も出るチェンジが必要なわけではないが、そういう習慣だから。技術的にはメーターのパネルが大きくなったり、ハンドルの材質を変えたりするだけで、性能は変わっていない」、家電のモデルチェンジも「スイッチ周りのレイアウトが変わっただけなんだから機能に変化はない。だがそのために技術者は大変な苦労をしている」

と教えてくれました。

出さなくてもいいのに、出さなければならない。
やはりどこも無理をしているわけですね。

でも、そういうどうでもいい技術開発を続けているうちに、やがて画期的な技術が誕生するのだ、というのが大先生の話しの肝でした。

出版界も過剰な発行点数を出しているうちに名作を生むのでしょうか。その前に出版社がもたないんじゃないかと思いますけど。

では、また来週。



    《編集後記》
 


今週も出版関係者しか知らない、マニアックな業界事情をお届けしましたが、いかがでしょうか。出版プロデュースで貧乏暇なし?状態で「連絡しないでくれ」という感じの本多さんをご相談などに無理やり連れ回して心苦しく思う今日この頃です。

※だったらお金になる話をもってきなさい、というツッコミが確実に入りそうです。(発行者:樋笠)




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出版プロデューサー/本多 泰輔(ほんだ たいすけ)

プロデューサー・本多泰輔氏は、ビジネス出版社(版元)で20数年の経験をもつベテラン編集者から、出版支援プロデューサーに転身した人物です。その考え方について詳しく知りたい方は、本多氏編集のメールマガジン『コンサル出版フォーラム!本はあなたをメジャーにする』のバックナンバーをご一読下さい。

尾身幸次/中村天風師の教えを実践・体得する《究極の成功書》『成功への実践』 弥富拓海/賃金制度の作り方スターターキット
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