おはようございます。
本多泰輔です。
小泉前総理が「目先のことに鈍感になれ。鈍感力が大事だ」と政治家の『鈍感力』の重要さを主張したそうです。
政治家が鈍感でいいのかどうかは、常識のない私にわかるわけがありませんけど、小泉前首相が口にした『鈍感力』が、渡辺淳一の新刊『鈍感力』(集英社)から来ていることはよくわかります。
『愛の流刑地』と一緒に買ったのかどうかは知りませんが、前首相の一言は本の売れ行きに大きく影響しますから『鈍感力』もベストセラーになるかもしれません。
それにしてもジャンルはよくわかりませんが、前首相は小まめに読書しているように感じられます。
一昨年の夏、当時まだそれほど売れてはいなかった『信長の棺』は、この人が「いま読んでいる本」として紹介したとたんにベストセラーに踊り出ました。
驚いたのは、話題にもなっていない無名の新人作家(当時はです)の本まで読んでいることでした。多分、いつも新刊書をチェックしているのでしょう。新刊主体の読書家だと思います。
いずれにしても、政界でもそうであるように出版界でも影響力のある人です。ここのところ新聞の盗作・引用事件が多いですが、首筋の寒い人は2〜3人じゃないでしょう。その100倍はいるんじゃないでしょうか。
新聞社がよそから記事を盗用したんじゃ社の沽券にかかわることですから、それぞれ自ら身を処しましたけど、一連の記事が「盗作」か「参考」かを法的に争ったら白黒つけるのは困難だと思います。
ま、その辺の話は改めてやるとして、今回はライター起用のメリット・デメリットについてです。
■ゴーストライター
この前、映画館で「ゴーストライダー」(ニコラス・ケイジ主演)という映画の予告編をやっていました。どうもゴースト「ライダー」がゴースト「ライター」に聞こえてしまい、世界を救うゴーストライターってどんな仕事だろうとしばらくトリップしてしまいました。
「ゴーストライダー」は何なのかよくかりませんでしたが(とりあえず映画ですけど)、ゴーストライターはいわば代筆です。
だいぶ前にも書いたことですが、編集部はまず売れる著者を一番大事にしますが、原稿のレベルが一定水準を超えている著者は重宝しますのでこちらも優遇します。
編集部が企画を立てて著者に依頼するときは、やはり書ける人(原稿のレベルが一定以上の人)の中から声をかけていきます。したがって著者本人が原稿の上手な人であれば最も理想的なわけです。
ゴーストライターという呼称は最近あまり使われません。
普通にライターというケースが増えているようです。
一般書やビジネス書の世界では、常態的にライターが活躍しているからかもしれません。実際今日の大量新刊発行は、著者だけの作業では困難ですから。
ライターが起用されるケースは次の2通りです。
1.出版社がライターをつけてくるケース
2.著者サイドがライターを抱えているケース(著者自身のスタッフにライターがいる、または著者を担いでいるプロダクションにライターがいる)
世上に多いのは1のケースだと思います。有名企業の経営者、ユニークな体験・ノウハウを持った人の本をつくりたいというときは、出版社がライターを用意する場合が多いです。
稀に本人が書くというケースもありますが、ほとんどの場合はライターがインタビューを重ねて原稿を起こします。
だから本人を知る周囲の人は、普段の言動と違ったことが書いてあるので「いやあ、見直しましたよ」「立派なことが書いてありますねえ」となります。それはそうでしょう。本人が書いてるわけではないのですから。
2のケースは、編集プロダクションが著者を囲っている場合か、1のケースでコンビを組んだライターとの相性がよくて、その後もパートナーとして継続している場合です。
または売れっ子になってから、著者自らがオーナーになってプロダクション体制を敷いているようなケースです。
■メリットとデメリット
では、それぞれのメリットとデメリットについて見ていきましょう。
まず、自分で書く場合のメリット。
○ライター費用が要らない
○印税収入はすべて著者本人に入る
デメリット
×執筆に相当の時間をとられる
×原稿の質が低いと書き直しを要求される
次にライターを起用する場合のメリット
○何といっても手間が軽いため、ほかの仕事を優先してできる
○腕のよいライターを起用すれば原稿の質は保証される
○ライターの持つ情報も原稿に生かせる
デメリット
×ライター費用を負担しなければならない(有名人の場合は出版社が全額負担する)
×ライターによっても得意分野があるため出来不出来の波がある
×腕のよしあしを著者側で判断しづらい
×ライターに関する情報が少ない
まあ、以上はいわずもがなですね。もう少しケースを細かく見て、出版社で紹介されたライターと自分で抱えるライターの場合のメリット、デメリットを見ることにしましょう。
出版社でライターをつけてくれる場合のメリット
○テーマとライターの得意分野については、出版社が担保してく
れているので信頼できる
○出版社との途中打ち合わせは著者が不在でも進行できるので極
めて楽
デメリット
×その出版社にはライターの必要な著者として記録されるため、
リピートの発生率は低くなる(10万部を超えれば別。出版界ではすべてのことは部数が解決します)
×ライターとの相性が悪くても変えることが難しい
×印税からライター費用が引かれる
メリットとデメリットとはそもそも裏腹なものです。
冒頭にあるライターを紹介した出版社に「ライターの必要な著者として記録される」というデメリットはその通りですが、それは他社の知るところではありませんので「わかりやすい原稿を書く著者」として別の出版社からオファーが来ることは、はっきり言ってよくあります。
ライターが書いてるとは知らない出版社からオファーが来た場合、次の課題に進んでいくことになります。
■自前でライターを抱える
「先生の原稿はわかりやすいので、ぜひわが社でもお願いします」と原稿依頼が来たとき、「いやあ、あれはライターさんが書いてましてね。お宅でもライターを用意してくださいよ」と言えば、「今回の話しはなかったことに、また機会を改めてお願いに上がります」となります。
ただし、本当に改めて来ることはありません。自信があれば自分で書くか、そうでなければ今度は自分でライターさんと交渉することになります。
自前でライターを抱えるメリットは、ライターを起用するメリットと同じです。一度組んでやれば、ライターのほうも勉強しますから同じようなテーマであれば二度目からは取材もスムーズになります。
ただし、出版社からの紹介と違い進行過程では、全部お任せというわけにはならず、自ら打ち合わせに出向くことも必要になります。その際、ライターに同行してもらうことはできます。
デメリットとしては、ライターというはいつでもどこでも供給されるというわけではないので、たまたま知り合いのライターに仕事が入っておりスケジュールが取れないという場合、なかなか代わりがみつからないことです。
最近はライターユニオンみたいな組織もありますが、出来不出来、得意不得意まで把握することは難しく、結局やってみないとわかりません。
最悪の場合、経費はかかるは原稿の質は悪いは、本は売れないは出版社から評価を下げられるは・・・という踏んだり蹴ったりの状態になります。こうした事態だけは避けたいですね。
編集プロダクションに担がれて出版をする場合は、実務の作業体制は一応揃えられているので、著者は企画に沿って話をして原稿をチェックするだけで、あまり手間のかかることはありません。
そのかわりよほど有名人でないと諸経費を引かれるため、印税収入も少ないというのが現実です。
一方、本が売れて有名人になると本人もよく知らないうちに、次々と新刊が出るという事態になります。
ではまた来週。
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