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第183号 『いまどきの本に今日の読者が求めているもの』

おはようございます。
大変ごぶさたしております。

夏の続きがいつまでも長引くと思ったら今日はいきなり冬のど真ん中に突入、という荒っぽく編集した映画のような天候の中、みなさまお元気でしょうか。季節の変わり目になると現れる本多泰輔です。

先日、このメルマガの発行者から「夏以来メルマガ更新されてないんですが・・・」と言われ、思えば月刊が季刊となり、このままでは季刊でさえなくなって年刊になってしまうことに気づき慌ててこれを認(したた)めております。

さて、今年もいろいろなテーマの本を出版しましたが、改めて思うのはよくこんな本を出してくれる出版社があるよなあ・・・ではなくて、出版のテーマはセミナーテーマの3歩手前、コンサルティングの10歩手前に留まるべきということですね。

なんだその3歩、10歩って? と思われるでしょうから、かいつまんでご説明いたします。

3歩手前、10歩手前というのは、要するに一つのテーマの概要を多くの人にわかってもらうには本が適当、そこから3歩進んで深堀りして分析しようとすればセミナーのほうが向いている、10歩進んで自分で実践しようと思ったらコンサルティングでないと無理ということです。

まだ、わからない? そりゃまあそうかもしれませんね。書いてる当人も思いつきでやってますから。


■読者は本に多くを求めていない

最近ではさすがに会計の本は下火になりましたが(でも燠火は残ってると思います。忘れたころにまた誰かが何か出してくるでしょう)、まあ決算書がテーマといたしましょう。

そもそも決算書って何? という初歩の初歩のテーマがふさわしいのが本、決算書を分析するというアドバンス・コースにはセミナーのほうがよい、じゃあ実際に決算書をつくってみましょという実践を伴うとコンサルティングの出番、そんな感じかなと思います。

本がテーマにすべきは初歩的な導入までということです。
本が初歩的な導入に優れているメディアというより、読者が本に求めるのがそこまでなのかなという気がしています。

決算書であれば、決算書ってなんだ? という疑問を解消するために本を読む人がほとんどで、決算書を分析するために本を読もうと考える人は極めて少数になっているのではないでしょうか。

過去にはけっこういましたけどね。決算書分析というのは売れ筋ジャンルの一つで、そこそこ部数も伸びましたから。

ですから、銀行が頭を下げて「お金を貸りてください」と頼みに来るような決算書をこしらえるというテーマは、なんかありそうな気がするのですが、どうも本のテーマとしては分を超えているようです。概論から技術的なところに一歩踏み込んだとたんに読者が離れていきます。

まるで「あ、それもう要らない」と言って読者が引いていくのが目に見えるような錯覚さえ覚えます。

いまの読者は、本に多くを求めなくなったように感じられます。


■入門から実践、そして再び入門へ

ま、確かに本を読んで何かができるようになるというのは昔からありませんで、よい見本が「英語をマスターする本」、「英語をマスターする本」を読んで英語ができるようになった人はいません。なぜならどの本も日本語で書かれていますから。

ダイエット本もそうじゃないでしょうか。

もしダイエット本で痩せることができるなら、『タニタの社員食堂』だけで420万人は痩せたはずですし、『巻くだけダイエット』を加えればプラス100万人、埼玉県民くらいはすでに痩せたはずですが、なぜかそういう話は聞こえてきません。

英語のできる人が本当に増えたら「英語をマスターする本」はどんどん売れなくなりますし、みんなが痩せたらダイエット本は要りません。「勉強法」もそうですね。

何かをマスターしたり実践したりすることには、実は本というメディアはあまり向いていないのかもしれません。

唯一向いているのは「文章力」くらいでしょうか。「痩せられる」という「実践」をテーマにした本は、結果が伴わなくても勢いが衰えません。

一方、同じく「実践」であっても「売上を伸ばす」「部下を育てる」「黒字にする」という本はとんと売れません。売れないということは、つまり読者が求めていないということです。結果が伴わないという点では、どちらも似たようなものなのに。

「実践」は過去には何万人かの読者がいたテーマなのですが、今日のビジネス書は「○○ができるようになる本」よりも「○○くらいは知っておくための本」に後退し続けているように見えます。

ひょっとすると、そこが本来のポジションなのかもしれません。よくよく振り返って見ればビジネス書が台頭し始めた1965年前後、そのテーマの多くは「入門」でした。「実践」は入門のテーマが尽きた後に必然的に登場したものです。「実践」も尽きてしまった今日再び「入門」へ回帰しているという見方だって否定はできません。


■いまでも変わらない本の効果もある

さて、読者に多くは求められていないビジネス書ですが、本というメディアの大きな特徴である著者に対する信頼性という点はまだ揺るぎないようです。

正確に言うと一冊の本を読んだ読者が抱く著者への信頼は、本を読む以前に比べ飛躍的に高まるということです。オーソライズという言葉が英語で著者を表すアーサーから来ているように、本には著者を権威づけるパワーがあります。

これはどなたも読者として経験のあることと思います。

わたくしごとでは本を読んだ時にはすっかり信頼していたのに、実物を見たら「なんだ見損なってたわ」とがっかりしたことが今年だけでも3回ありました。そんな人の発言でも本を読んだだけの時、すなわち本人に会うまでは深く信じてましたから、やはり本の力は侮れないのだと思います。



   《編集後記》
 
最近は「季刊」のようになってしまい申し訳ありません。なんとか廃刊せずに続けていきたいと思います(発行者:樋笠)





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